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学長対談シリーズ

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第2回ゲスト:キリンホールディングス株式会社取締役(前・株式会社ブリヂストン会長)荒川詔四様

第2回ゲスト:キリンホールディングス株式会社取締役(前・株式会社ブリヂストン会長)荒川詔四様 世界最大のタイヤ・ゴムメーカーであるグローバルカンパニーのブリヂストンで代表取締役社長・会長を歴任し、同社のグローバル化の進展に貢献されました。「多様な国の習慣や文化、価値観を前提に、経営することが今の時代には欠かせません」。本学で学んだことがブリヂストンへ入社後にどの様に役だったか、今後本学に必要な取り組みについて伺いました。

立石博高学長(以下、立石学長) 今日はお忙しい中、ありがとうございます。荒川詔四さんは、世界最大のタイヤ・ゴムメーカーであるグローバルカンパニーブリヂストンの社長、そして会長を務められたわけですが、実は荒川さんは本学のインドシナ語科(タイ語)のご出身です。本学で学ばれてブリヂストンに入社されたということで、その辺りのご事情、そしてまた入社後のご活躍についてお聞きしてまいりたいと思います。さらに、荒川さんは本学の経営協議会委員をお受けくださいまして、この2年間、厳しい目で本学のさまざまな取り組みについてご助言をいただいてまいりました。本学がどのような方向に向かうべきなのか、そうしたことをあらためてお聞きしたいと思います。

p1.jpg荒川詔四様(以下、荒川様)東京外大を受験しようと思った時に、外大に入学した先輩の話を聞く機会がありました。その方は英米科の方でして、自分は英米科に入ったが、英語なんてどこの大学にもある、とそう言ってたんですね。それを聞いて、何か変わった言語を受けた方がいいんじゃないかと思い、タイ語を受けました。目的意識がはっきりとあったわけではないので、タイ語がどういうものかもあまり知らない、タイ文字を見ただけで、大丈夫かなという感じでした。その頃はまだまだテキストなども不足した時代で、もちろんインターネットもなくて、教科書は、先生のガリ版刷りの手作りの教科書でした。

立石学長 日本が活躍する、海外でいろいろ展開していくためには、アジアへのまなざしが必要ですし、そしてアジアの言語をきちんと学んでいくという、そうしたことが必要だと思っています。荒川さんが何となくタイ語を選ばれたというのも、アジアで活躍したいというお気持ちもあったのではないでしょうか。

荒川様 そうですね。ただ、タイ語を学んだから、じゃあタイに行って活躍しようとか、そことの付き合いで何かをしようということではありませんでした。学生時代に特殊な言語・地域を選んでおきながら、そこにコミットしてやってみようという気は特にありませんでした。タイに行って活躍している先輩もいましたけど、それがうらやましいとも手本になるとも思いませんでした。

立石学長 当時としては特殊な言語を学んだというのは、昭和30年代以降、英独仏というような日本のいわゆる近代化をリードしてきた地域だけでは解決できない、そこだけに限定してはいけない、という見通しがあったのでしょうか。

荒川様 そうですね。そういうメジャーな言語は、ピークに来ているという感覚は何となくありましたね。

p2.jpg立石学長 タイ語やタイの地域文化を学ばれて、その後の荒川さんの進路決定や企業に入られた後にどのような影響がありましたか。

荒川様 実は、ブリヂストンを受けたきっかけは、美術館があったという理由からでした。私は外大で美術部にいまして、絵を描いたり鑑賞したりする時に、ブリヂストン美術館が非常に良かったんです。土曜講座もあり、そういった活動にも優れてたんですね。絵は素晴らしい、活動も優れていて、こういう会社はすばらしい、文化的な会社だと思いました。そこで、ブリヂストンを受けたのですが、たまたまブリヂストンがタイに工場を造るという計画があって、タイ語専攻の学生だった私が入れたわけです。

立石学長 タイ語をきちんと学ばれて、その地域の文化について知識を深めた。その一方で、英語が当時においても必ず必要だという、そういう強い認識があって、英語を猛勉強されて英検1級に受かったと伺いました。


荒川様 英語は学生時代ではなく、会社へ入ってから厳しく勉強させられました。会社の教育訓練で、英会話とコレポン(コレスポンデンス)ですね。これが結構きつくて、英会話は欠席数が多くなると、人事部から上司にレポートが行って、ちゃんとやらせろというお叱りを受けます。コレポンは帰宅してからやるのですが、その時間をなかなか取れない。どうすれば、これらをやらなくてよくなるのかを聞いたら、英検1級があればやらなくていいというので、猛勉強しまして受かりました。ブリヂストンはグローバルカンパニーということで、売り上げの8割は外国ですし4分の3が外国人社員なので、共通語はやっぱり英語になります。コミュニケーションを取るには英語は「当たり前」な世界です。

立石学長 私は1969年に本学スペイン語科に入学しましたが、スペイン語は優秀でも英語はあまりできない、というような学生は結構いました。会社に入ってから、大学で学んだ言語をどこかで使うことはあっても、実際の仕事では英語が主体になってくる。なかなか当時は「外国語大学」というだけで、英語ができるのが当たり前、英語ができた上でさらに地域言語を要求されるわけですね。仕事の中で地域言語を使う機会はございましたか。

荒川様 私の場合はたくさんありました。結果的にはタイに3回駐在しまして計13年半ぐらい滞在しましたので、使う機会はたくさんありました。地域言語としての専攻語の意味合い、共通語としての英語の意味合いというのを、両方とも肌身で体感しました。1つの専攻語の言葉だけを修得するというのはあまり意味がなくて、言葉は入り口で、Area Studiesといいますか、そこからいろんな文化だとか物の考え方というのがもっとあるわけです。ところがタイ語専攻を出たということで、すぐに通訳しろ、翻訳しろといわれるわけですけど、なかなか実際はそこまではできなくて。大学で何をやってきたんだと思われ、ものすごく恥をかく。これが法学部や経済学部の一般社会科学系の場合は分からないわけですけど、語学の怖さというか悲劇というか、一発で分かっちゃうんです。ですから、東京外大の「各言語のレベルをチェックする」という計画は、私は大賛成ですね。結局は学生のためになるわけですよね。

立石学長 そうですね。本学は今、CEFR-Jという形で、ヨーロッパの言語判定の基準を参照しつつ、英語だけでなく、少数言語、地域言語の到達度をきちんと評価し可視化しようという、そういう取り組みをしております。

荒川様 大学教育の人材教育というところで、どういう人材を育てました、どういうことを教育しました、到達レベルはこのぐらいで、この人間についてはこういう品質を保証します、というところになると思うんですけども、その時に1つの大学の核となる部分ははっきりと示されなければいけないと思うんですよね。

立石学長 私自身、その点はとても痛感しています。建学150周年基金のスローガンで、本学は「世界諸地域の言語の理解を基盤とするオンリーワンのグローバル人文社会科学教育研究拠点の実現を目指す」と掲げています。言語文化学部は人文科学を主体とし、国際社会学部は社会科学を主体としていますが、その核は、「世界諸地域の言語の理解を基盤」とします。言語をきちんと客観的に指標でもって示していかなければならないと思っています。

荒川様 そういうことですね。私も、ここを卒業して会社に入り、それで幸か不幸にしてその専攻語を生かさざるを得ないところに行った。そのスタートの時から、もっとしっかりと勉強しておくべきであったと思いましたし、語学は特に強制的にやらないと、結局は本人が損するんですよね。

立石学長 荒川さんの場合、いろんな国に駐在されたんでしょうか。

荒川様 ええ、そうですね。私はタイに行って、トルコのイスタンブールにもおりましたし、最後は欧州事業のCEOということで、ベルギーのブリュッセルに駐在しました。

立石学長 そうしますと、赴任先でもちろん英語によるコミュニケーションは必要ですけども、各々の地域の言語についてはいかがでしたか。

荒川様 そちらについては勉強する余裕もなく、英語を使用していました。しかし、基本的にタイ語を学んだということで、ある意味、そこから「ダイバーシティ」というのはどういうものかというのを私は学んだと思います。その時代でも、やはり価値観は欧米系の教育がなされているわけですけど、タイの文化、タイの価値観なんて全く違うものですよね。欧米の教育を受けた人間がポンっとそこに放り込まれると、全く違う世界です。ベルギーの統括本社では30カ国ぐらいの人間が働いていて、全く国も民族も違った様々な考え方を持った人々が一緒に働いているわけですが、違和感もないし、ある意味とても心地いいんですね。そこのところに、マイナーなところを学ぶ意味というのは、とてもあるのだと僕は思っています。まず欧米系の価値観を壊してしまう。

立石学長 そこから荒川さんの名言の1つが生まれているわけですね。「多様な国の習慣や文化・価値観を前提に経営することが今の時代には欠かせません」という。

荒川様 ええ、そうですね。不幸にして日本は島国ですから、これから観光客がいくら増えていっても、肌を接して一緒に住み生きるというのはまだまだ遠いことだと思います。そうなると、若いうちに価値観の違ったところにたくさん行って肌身で感じるということがとても大事だと思います。

立石学長 荒川さんの場合は、グローバルカンパニーで多様性を絶対的に認めなければいけない。認めるというのは、単にクロスカルチャーというような形での一方的な受け身の講義あるいは知識の修得よりも、実際にタイ語を学ばれて、またタイの文化に接することによって、体験的にいわゆる皮膚感覚として、そうした多様性への接し方というものを若い頃から修得したということが、非常に重要な意味を持っているということですね。

荒川様 彼らと一緒に生活し、いろんなことをだんだんに学んでいく、気が付いていくという時に、重要なもののひとつは「言葉」ですよね。文字が読めるようになった時、話せるようになった時、何か目の前がぱあっと開けてきたような感じがありますよね。それは非常に大事なことです。しかも、言葉はある程度若い時でないと身に付かないと思います。

立石学長 そうですね。本学は今、Global Japan Officeという海外拠点をアジア・アフリカ中心に設置して、日本語教育・日本研究を盛んにしようという取り組みをしています。昨年夏にミャンマーに行きまして、1月末にはヤンゴン大学にGlobal Japan Officeを開設しました。せっかくだからビルマ語を少しでもかじろうと思って、テキストを買ったのですが、やはり60代半ばになると、なかなか入ってこないのが正直なところです。

荒川様 ええ。これは若いうちですよね。私も随分タイ語でいろんなスピーチをしましたけども、普通のスピーチの速さで読めるようになるというのは、若い時でないと。結局そんな特殊なことである程度の時間を取れるのは大学の時くらいです。

立石学長 今、リーダーの育成ということが盛んに言われています。「人を動かしたければ相手を徹底的に知ること」という荒川さんの名言がございますが、相手を徹底的に知るというのは、どんなことで可能になっていくのか。どのようなことを心掛けることによって相手を徹底的に知るように努められていますか。

荒川様 1つは、相手をリスペクトするということ。それと、謙虚になること。トップになってもずっと必要なことです。

立石学長 意外な言葉ですね。いわゆる今、リーダーと言うと、謙虚さがあまり求められてないようなイメージがありますが。

p3.jpg荒川様そうではないと思います。リーダーというのは、結局はいろんな場面で自分の知恵が積み重なってきて増えていく。積み重ねられる知恵は外からもらえるもの。人から学ぶということ。そのためには、ひとつは「学ぶ」という謙虚さがないと。そして、学ぶためには「教えろ」という態度ではなく相手をリスペクトすることが大事だと思います。話しやすい雰囲気だと、反対意見も言いやすくなり、いろんな意見を言ってくれる。だんだん活性化して、いい意見も言ってくる。そうするとお互いが高まってくると思うんですよ。

立石学長 大学時代の生活で、授業以外で学んだ何か印象に残ることはありましたか。

荒川様 そうですね、先生方が素晴らしかったということ。人を育てるというか、学生との付き合い方がすばらしく、夜中でも先生の自宅に上がり込んでいろんな話をしました。それを通じて、私の基礎的な人間性というものが出来上がったのかもしれません。しかし、今の教育現場ではそれは無理なことであるし、求めても仕方のないことだと思っています。それではどうするかというと、そこにはわれわれの様な卒業生がいるわけで、いろんな分野で活躍している卒業生がたくさんいます。卒業生のネットワークをフルに活用していくのがいいのだろうと思います。

立石学長 そうですね。知識と共に知恵を学ぶ上で重要な要素であったウェットな教師と学生の関係が薄れてしまうと、本来、人文科学が持っているはずだった人間力というものがなかなか培われてこないという面がありますね。今おっしゃったように、いろんな形でOB・OGの方々が活躍されているので、そうした人たちの声を大学に還元してもらう。多様な物の見方、考え方というものを培っていく、そうして大学を成長させていければ本当にありがたいと思います。OB・OGの方々と連携し、ご協力をいただいて、多様性を認め謙虚さを忘れない社会人になるように人材育成を進めて、東京外国語大学を発展させていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

荒川様 ありがとうございました。

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